講師インタビュー(2)
寺田達也 〜子どもの救急法国際資格 EFR-CFC 取得講座~
体験活動リーダースアカデミーで開講している様々な講座の講師に、そのスキルを身につけたきっかけや印象的なエピソード、そしてスキルを学ぶことのメリットなどをお聞きする「講師インタビュー」
今回登場するのは、「子どもの救急法国際資格 EFR-CFC 取得講座」をはじめ、「救急セットを見直そう!」や「子どもの救急法フォローアップ講座」など、救急法・ファーストエイド系の講座を担当する 寺田 達也(てらだ たつや) 講師です。
「子どもの救急法国際資格 EFR-CFC 取得講座」は、ほぼ毎回、キャンセル待ちの出る超人気講座。受講後の満足度もきわめて高いこの講座は、どのようにして生み出されたのでしょうか…。
(聞き手・テキスト: 水村 賢治)
■ 人気講座のバックグラウンドとなる3つの仕事
Q(水村):キャンプに、登山に、救急法の講師に… いろいろと活躍されている寺田さんですが、ふだんはどんな仕事をしているのですか?
A(寺田講師):肩書としては公益財団法人社会教育協会ひの社会教育センター(以下、ひの)のアウトドア係チーフなんです、一応(笑)。いわゆる「自然学校」のディレクターですね。春夏秋冬のキャンプの企画、運営、指導をしています。かれこれ8年くらいになりますか。
二つ目の仕事として、一般社団法人ウィルダネスメディカルアソシエイツジャパン(WMAJ)の広報とインストラクターとして野外救急法の普及推進と、指導をしています。こちらは2、3年かなぁ。
あとは冬場はスキーパトロールとして6年か7年間働いています。何年働いたかが全部あいまいですね(笑)以前はモンベルの直営店の社員として働きながらラフティングガイドのようなことをしていた時期もありました。もともとは教育学部で勉強していて、好きでアウトドアやってたんですけど、学生のころ始めた「ひの」のボランティアで火が付いて現在の仕事につながっている感じですかね。
■ 休日は自然と向き合い、感度を高める
Q:三足のワラジを履いているんですね。休日は、どう過ごしているのですか?。
A:実際368日くらい働いています(笑)比率としてはひの:WMAJ:スキー=7:2:1くらいかな。僕はもともとあんまりオン・オフにこだわりがない性格で、日常の延長線上にすべてがあるような生き方なんです。全部が一緒というか(笑)スケジュールが空いているとどうしても予定を埋めてしまいます。
ただ、コンスタントに山に出かけたりして、自然と触れ合うようにしています。自分のために時間を使うというのかな。自分の経験を積み重ねる、感性を磨くというとカッコいいですけど(笑)結果的にリフレッシュしたりもします。
ひの社会教育センターはいわゆる自然学校なんですが、子ども観、感覚、自然との距離感が好きなんです。よく聞くんですが、ディレクターやインストラクターも自然プログラムの内容よりも日常の仕事が忙しすぎて、仕事以外に自然の中に身を置く機会が少ない…と。ひのは指導者自身が「自然と向き合う」ということを大事にしている。
現場のプログラムにすべて落とし込めてるとは思いませんけれど、少なくとも職員レベルでは、野外活動の指導者は、自分自身が自然との距離感を大切すべきだというスタンスがあるんです。
それぞれが自分の山、自分の川などを持っているという感じですかね。「感度が高くないと本質にたどり着かない」そういう想いで動いているので、結果的に遊びとか自由が大事にされてるんです。ほどほどに合理的で、ほどほどに本質を感じながら教育活動ができるし、そういう機会を提供していると思います。
一般的にキャンプなどでは、プロセスが人を成長させるなどと言われますけど、ひのの職員は「2泊3日くらいではひとは変わらないけれど、変化のきっかけにはなってるかな」くらいの考えでいます。
写真家の星野道夫さんの言葉で「ひとつの体験が、その人間の中で熟し、何かを形作るまでには、少し時間が必要な気がする」というのがありますが、そういう感覚を共有しているんです。ただ、自由の裏では僕たちが発信するメッセージが本質かどうかは常に考えていますけどね。
■ きっかけは、アラスカキャンプ
Q:プラムネット(体験活動リーダースアカデミー)との出会いを教えてもらえますか?
A:プラムネット株式会社の渡辺さんとは大学生の時に会ったのが最初でした。参加者としてオーロラクラブのアラスカキャンプに参加したんですが、そのときのスタッフが渡辺さんでした。
卒業して数年後、ひので働き出してから、リスクマネジメントと子どもの救命法の講座を合わせて講座を立ち上げる大学の受託講座が入ったところで、リスクマネジメント講習をされていた渡辺さんに声をかけ、僕がEFRの講座を担当するようになったのが始まりです。
■ アラスカでは大自然と人間の生きざまに感銘
Q:話がそれますが、やはりアラスカでの経験は意味があったと思いますか?
A:アラスカキャンプ…こういう仕事をしている身から言えば、大きな意味があったと思いたいですね(笑)実際のところどうだったかはわからないですけど、いまだに覚えてるし、インスピレーションはうけますよね。
僕たちの年はちょうど嵐が来て、セスナ機が迎えにこれず、1週間くらい氷河から出られなくなったんです。テントと避難小屋に缶詰で、食料はだんだん少なくなってきて、「セスナは今日もだめかぁ」とだんだん憔悴してきました。そんなときに現地ガイドのブライアンが平静な顔で氷河の地図を見せてきて「いまここにいるだろ?タルキートナの街はここだ。いざとなってどうしようもなかったら1週間スキーで歩けば帰れるからさ」って言うんですよね。
自然の中に身を置いている感じも、オーロラを美しいと思ったことも覚えていますが、一番印象に残っているのはこの「現地のひとは自然と上手につきあっているんだなぁ」という驚きですかねぇ。自然と人間の生きざまが織り交ざっていろいろ教えてくれたんだと思います。
■ 究極の環境でも「助けよう」と体が動くことに意味がある
Q:救急法との出会いはどんなことだったのですか?
A:2008年に、ちょうど北米から入ってきたばかりだったウィルダネスメディカルアソシエイツ(WMA)のコースを受講したのがきっかけでした。今までに出会ったことがなかったことだったので、単純に「すげーーー」と思って、その後もスタッフと連絡を取り合っていたところ、縁あって2015年にインストラクターの認定を受けました。
野外救急法というのはそもそも北米から入ってきた新しい分野で、数あるファーストエイドの中でも一般人が受けることができ、どんなところでも傷病者を適切にケアできることを目指しています。国内でも最近はネイチャーガイド、トレイルランナー、アウトドア関係者、救助隊、医師なども受けるようになってきた成長分野でもあります。
僕自身も7年前にバックカントリースキーで雪崩事故現場に遭遇して、ちょうどコースの受講後だったので、助けようと体がスッて動いたんです。あの時動けたということは自信になった一方で、後から振り返れば足りなかったこともあります。でも、究極の環境でも体が動いて、人のためになるというのは意味があると思います。そういうプログラムなので、国内でももっと推進されるべきだと考えています。広報という仕事はいろいろな業界の人と会えるので面白い仕事でもありますね。
今は国際基準で言うとアシスタントレベルのインストラクターなんです。リードインストラクターになるには医療従事者免許が必要なんで、将来的にはカナダでEMT(救命士免許)をとって、リードインストラクターを目指そうという野望もあります(笑)
■ 傷病の処置だけでなく、心構えや法的な面も解説
Q:アカデミーで開講されている講座について教えてください。
A:体験活動リーダースアカデミーでは、小児救命救急法(EFR–CFC)という講座を、年間10回くらい開催しています。あとは時々、救急セットを見直そうという講座もやっています(笑)
大人の救急法については他の団体でもやってますが、子どもの救急法というのはあまりないんです。僕自身がひのでの仕事の経験の中で見たり聞いたりしたことから、子どもの安全管理については伝えられる情報をもっているというのもやろうと思ったきっかけです。
受講者には野外活動の指導者が多いので、指導者の救命救急における過失といった法的なことや、心構えについても触れます。あとは、大人と子どもの傷病ケアの違いについても触れます。例えば、心停止の理由は大人だと心臓発作が多いですが、子どもの場合は窒息や溺水など呼吸が原因のことも多いですから、胸骨圧迫(CPR)に加えて人工呼吸が有効な場合もあると伝えたりします。
■ 緊急か、緊急ではないかを適切に判断できてはじめて、処置につなげられる
Q:講座を通じて一番伝えたいことはどんなことでしょうか?
A:この講座を受けるために、全国からいろいろな立場の人が来ていただいているのはとてもありがたいと感じています。
現代の教育保育の現場は本当にいろいろなことで困っていると思います。時代的なものかもしれませんが、保育者や教員に責任がどんどん覆いかぶさっていっているような気がします。子どもを守らないといけないという責任の要請が重くなっているということですね。
一方で、その責任を全うするための知識とか対処法のスキルが追いついていないと思います。たたき上げのスタッフと先輩の経験だけでやっているところもたくさんあります。そこで現場の人がモヤモヤするんだと思います。
僕たちは民間団体ですが、専門的に検証されたことを体系立てて伝えています。また、野外教育は学校教育よりもリスクが高いところにあるので、そこで集められた事例や考えなどを学校や保育の現場に還元することも意味があることかなと思います。
例えば、僕の講座ではどうやって固定やテーピングをするかの処置論ではなく、目の前の傷病への処置が今すぐ必要かそうでないのかの判断ができるようになることを、最も念頭に置いています。なぜなら僕たちは医師ではないので診断はできません。情報を収集して緊急か緊急ではないかを判断して、その後の処置につなげなければならないわけです。
例えば目の前にけが人がいたとして、声をかけるのか、手当をするのか、救急車を呼ぶのか、タクシーに乗せるのか、それとも無視をするのか。こういうことだって私たちは判断しているわけです。
講座では、フィーリングで判断するのではなくて、根拠をもって判断しようというトレーニングをしているのです。救急法の場合は判断基準は意外とシンプルです。こういう判断は、実は救急法に限ったことではなく、リスクマネジメント全般、もっと言うと毎日の生活にも活きてくるものだと思っています。
Q:ありがとうございました!